未知のアビリティに目覚めたら囚人闘技者にされたんだけど!? 「4話:とあるドワーフとの一幕」

「明日か……」

 ぽつりと呟く。

 俺の特殊囚人闘技者としてのデビュー戦。
 それが栄えあるものになるかどうかは俺次第……いや、ほとんど運次第だろう。
 不幸中の幸いで、それほど強くない奴が相手だったら本当に嬉しいのだが。

 ……。

 俺は手を組んだ。

「俺の日々の善行よ、今こそ我に生き残るチャンスを与えたまえ……!」

 とか言って祈ってみる。ははっ。

 こうやって口だけでもふざけたりしないと、精神が崩壊しそうだ。
 昨日から心臓の鼓動が凄い。心臓が全身に血を巡らせるポンプの役割を果たしているんだなあ、としみじみ思うくらいには激しい。

「どうした? いらないのかい?」
「ん、ああ、わりい、ぼーっとしてた」
「そうかい」
「美味そうだなあ、これ何入ってんの?」
「次がつかえてるんだよ、早く行ってちょうだい」
「……」

 がたいのいいおばちゃんとの会話は、二往復もせずに終わりを告げた。

 ここは食堂。普通と違うのは、食事してる奴らの服装が揃いも揃って、白と黒の横縞模様なところだ。色彩過多な首都エゴーの景色を連日見てきたせいか、その光景を見て少し落ち着くのは誰から送られた皮肉だろう。
 少なくとも神でないことは確実だ。神が見てたらそもそも俺はこんなところにいないはずだからな。
 恐らく邪な精神を持った邪精あたりだろう。ケッケッケッー♪とか笑っているに違いない。
 実際にいるかは知らん。

 ちらほらとだが、手首に腕輪を嵌めた奴が見受けられる。
 そう、例の『アビリティ制御装置リストレイン』だ。
 今ここで食事してる奴らの中に、明日の対戦相手がいるかもしれないってわけだ。……くくく、いいねえ、オラわくわくしてきたぞっ!
 嘘だが。

 バクバクうまうまっ、ぺろりんちょ♪



 なんて食が進むわけもなく、俺は支給された食事をもそもそと咀嚼そしゃくしていた。
 ちなみに食事メニューは、意外にも色彩豊かだった。

 ……おのれ、ここであったが百年目っ!今こそあのときの復讐を果たさん!

 首都エゴーの街並みが脳裏に蘇り、すぅっとナイフをちらつかせる。食べ物に……。
 馬鹿な真似を止めて、食事を再開する。

 いや、この色彩の豊かさは目に優しい。それに、健康に気を使ったメニューだと一目でわかって嬉しい。

「腐っても闘技者。体が資本ってことか」
「景気悪そうな顔してんなオイ」

 ん?

 振り向くと、ドワーフの男が俺に話しかけていた。髪とひげがモジャモジャしている。……ふむ。
 ちらっ、とな。
 男の腕にそれとなく視線をやる。……腕輪は付けてない。ならこいつは、普通の囚人闘技者か。
 どこか安心したような、あるいは期待外れのような気持ちが胸中に広がる。
 にしても……コイツ景気なんて言ったな。
 だが。
 そもそもここに景気なんて関係あんのか? 刑期なら大いに関係あるだろうが……あれ?そういや、俺って刑期どんくらいだ?裁判所みたいなとこで判決下されたときに聞いた覚えがない。
 変だな。

 何か……嫌な予感が身体の上から下に滴り落ちた。それは下腹部あたりで止まった。

「おい、聞いてんのかよ」
「けーき」
「あ? ケーキ? デザートでたまに出るよ。それがどうかしたか?」
「食べたい」
「今日はないな。デザートはたまにしか出ねえよ、残念だったな」
「……え?」
「え?」

 無意識に会話の応酬が成立していたらしい。さっきのおばちゃんとは大違いだ。俺はうわの空で返事していたことを億尾おくびにも出さずに、顔をキリッと引き締めた。



「刑期……罪を償う期間のことだ」
「えっ? ……ああ、そういうことか! ん~刑期なんて人それぞれだろ……っていうか俺の話聞いてたか?」
「俺の目を見たらわかるだろ?」
「聞いてたって言いたいのか? ふざけた奴だ」
「聞いてなかった」
「ブッ飛ばすぞ!」

 やおら椅子を蹴って立ち上がるのを、俺はぼぅっと眺めた。立ってもいいが、刑期のことが気になる。早く話せ。

「どうなんだ?」
「こっちのセリフだよ舐めてんのか!?」
「落ち着け、嫌いな食い物があったなら食べてやるから」
「全部食うよ!」
「なら座れ。ここは食事するところだ」
「……っち!」

 俺の話術に言いくるめられたのか、男は椅子を拾って座りなおした。
 俺はその様子を眺めながら思う。

 ……こいつチョロイな、と。
 もしこいつが女だったら、ろくでもない奴に10秒で引っかかって、2,5秒で孕ませられるレベル。
 おい、コンマで区切るなと言った奴、表に出ろ。
 戦いではコンマ数秒単位の挙動が生死を分けるんだ。そこんところ理解させてやるよ。あん?

「気を付けるんだな」
「うるせえ」

 こちらの意図などつゆ知らず、ドワーフことモジャ男は不機嫌そうに返答した。可愛い。

「お前新入りだよな」
「だったらどうした」

 お? 噂の新人いびりか? 上等じゃねえか。

 だが、俺の考えは違ったらしい。モジャ男は首を横に振っている。

「勘違いすんな。俺はただ新入りと親睦を深めようとしただけさ。それに……」

 モジャ男は俺の手首に視線を寄越した。

「アビリティ持ちに喧嘩売るほど、俺は馬鹿じゃねえ」
「なるほどな」

 俺は自分のアビリティ全然把握してないけど、それとなく胸を張って王者の風格をまとった。

「俺はツルリってんだ。アンタは?」

 ぶぱっしゃあっ!

  俺は口内で咀嚼していた食物を、光を怯えさせるほどの速さで噴き出した。口といわず鼻からも食物が飛び出る。目からも飛び出しそうになるくらいだった。

 そんなにモジャモジャで!? モジャ男って渾名あだな付けられてもおかしくないくらいなのに!?

「うわっ、キタネッ! なにしてんだよ!」
「……ごほっごほっ!」

 俺は咳を止めようと、必死に息を整える。

 ちなみに知ってるか? 目と鼻は、目の内側にある涙点るいてんと鼻の鼻涙管びるいかんで繋がってるから、目から何かが飛び出してもおかしくないんだぜ!ごほおっ!
 まあ、さすがに固形物は出ないだろうけど。ぐふっ。

「ったくなんなんだよ……」

 咳き込んで喋れないので、無言で謝罪の意を示すために、不敵に笑ってみた。

「(ニヤ)ぶぴゅいっ!」
「だああっ!」

 口の端からさらに食物が飛び出した。







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