未知のアビリティに目覚めたら囚人闘技者にされたんだけど!? 「3話:決意」

 俺は視線を下げて、自分の両腕に嵌められたリングを見つめた。

『アビリティ制御装置リストレイン

 文字通り、アビリティの発現を制御する能力だ。設定次第で、アビリティを全く使えないようにすることもできる。俺や他の特殊囚人闘技者は、闘技場で戦うとき以外は常にこの拘束具を嵌められる。

「たまんねえなクソッ」

 不快だ。この上なく。
 微妙に重いところもそうだし、質感も少しザラッとしていて肌が荒れそうだ。

 何より……。

「俺がどんなアビリティを持っているかは、戦闘中に見つけるしかないってことはマジできつい」

 初戦で死ねと言っているようなものではないか。ふざけるなと言いたい。

「今までの人生で培った剣技で、アビリティ持ちにどれだけ対抗できるんだ?」

 アビリティ持ち……特殊囚人闘技者として登録されている奴らの戦闘力は別格だと聞く。
 俺は他人が戦うところなんて興味がないから、闘技場を観戦したことなんてないが、まさにそれは人外の化け物の戦いを見るかの如くであるという。
 闘技場観戦と懸けが好きな傭兵仲間が鼻息を荒くしてまくし立てられたのを、鬱陶うっとうしげに聞き流していたことを思い出す。

「こんなことになるなら、もう少し真面目に聞いとくんだった」

 だから言ったろぉ? 後悔先に立たず! 俺みたいに色んな経験をしたほうが、人生楽しいし長生きにだって繋がるんだぜぇ~? 俺の生き様……ワイルドだろぉ?

 懸け好きの傭兵仲間が、笑いながらそう言ってくる光景が脳裏に浮かんできて、無性にいらつき壁を叩く。
 にやついた顔に拳を叩き込む想像をして留飲りゅういんを下げる。ふはは……空しい。

「アビリティ……俺はどんなアビリティを……?」

 自問するように目を閉じたが、わかるわけもない。
 俺がアビリティ持ちだということが分かったときは、正直興奮した。

 俺に一体どんなアビリティが!?ってな。そして一瞬で冷めた。

 俺の寿命はあとどれくらいだ?ってな。

「ああ~~、どうするよっ初戦から超強くて情け容赦ない奴が相手になったら」

 人生はなんて不条理なのだろう。この数日でそれを嫌というほど実感した。

 これでも俺はイイ奴だ……と思う。法を犯すような行為に手を染めたことはないし、女・子供にはちょっと甘過ぎるかもと自嘲するくらいだ。
 具体的に言うと、傭兵仲間に無理やり連れていかれたガールズバーでぼったくりに遭いそうになったとき、傭兵仲間と一頻ひとしきり暴れはしたものの、女には一切手を出さなかった。
 ビンタぐらいしたほうが女のためにもなった気はするんだが、部屋の隅でガタガタ怯えているのを見て、そんな気はすぐに失せちまった。
 血の気の多い傭兵仲間は気が治まらなかったようだが、これから酒場をハシゴして全員に奢ることを約束して事無ことなきを得た記憶を思い出す。俺の懐は全く事無くなくて、むしろ大惨事だったわけだが。

「人生ままならねえなあ……」

 幼少のころからの訓練と傭兵としての修羅場を潜り抜けてきた経験。
 俺は傭兵の中でも腕が立つほうだと自負しているが、懸け好き傭兵の言うことには、アビリティ持ちの特殊囚人闘技者は別次元って話だ。。。



 別次元。

 別格。

 化け物。

「俺の剣捌きも十分見た上での発言だからな……」

 焦る。考え出すと冷や汗が止まらねえや。

 アビリティ持ちに会ったことがないわけではない。だが、アビリティでも戦闘系の能力に目覚める奴はそう多くないって話だ。現に俺は16年生きてきて、戦闘系アビリティ持ちに会った経験は数えられるほどしかない。
 そして、そいつらは実際に強かった。だが別次元というほどではなかった。

 とある腕力の上がるアビリティ持ちなら、大岩を持ちあげられるが、それでも両手を使っていた。
 とあるいかづちを発生させるアビリティ持ちは、人を殺せるほどの雷を生み出すが、身に纏うだけで手のひらから放電とかは出来なかった。

 ではなぜ、懸け好き傭兵が特別囚人闘技者を化け物と称したのか。
 それは――、

「法を犯してもかまわないだろうと考えてしまう……つまり倫理観が吹き飛ぶ。それほどに凄まじい戦闘系アビリティに目覚めるからだ」

 あくまで俺の持論に過ぎないが、恐らくそれほど間違ってはいないと思う。
 ならば特殊囚人闘技者の理性はどれほどか……考えるまでもないな、これは。
 命乞いなんかしても、容赦なく殺されるだろう。虫を踏みつぶすように無慈悲に。あるいは、獲物をなぶるように愉快そうに。。。

「……っ」

 一つ分かりきっていることは、時間は決して戻らないこと。つまり今の俺がやるべきは、生き残るにはどうしたらいいか、最善を尽くせるよう考えるだけだ。

 ……。

 …………。

 …………………よし。俺は狭い個室で一人頷いた。

 十二分に考えた。一時間は悶々としていたが、結論は出た。それは――!


「腹をくくって挑むしかねえ(笑)」

 結局のところそれなのだ。
 だって、看守にアビリティを確かめさせてくれって言っても、頑として首を縦に振らねえし。
 危険性を考えれば当然のことだろうけども。

 だから――腹を括って戦いに挑む。それだけ。

 目の前に見える、濃灰色のうかいしょくの壁――その奥を見透かすように、闘技場で戦う自分の姿を想像する。
 勝って拳を突き上げる姿を強くイメージする。。。

「―――――――よし」

 俺が収容されて、三日目のその日。
 二日後の午後二時――俺の特殊囚人闘技者としてのデビューが、決まった。







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