未知のアビリティに目覚めたら囚人闘技者にされたんだけど!? 「5話:秘訣」

 一段落した後。モジャ男ことツルリ(笑)が言うには――、

 自分はここで流通の商い(非公式)をやってて、新入りには取りあえず声をかけるようにしている。
 もし何か欲しくなったら、自分に言えば調達可能かもしれない。
 ただし、その分の対価はきっちり頂く。

 と、いうことだった。

じゃの道はへびってことか」
「そういうことだな。話が早くて助かるぜ」

 早い? 割と紆余曲折あったような気もするが、俺にも多少原因があるのでそこは追求しないでおいた。

 お互いの自己紹介を軽く終えると、さあこれからが本題とでもいうようにツルリは身を乗り出した。

「で、スレイ、アンタはなんで捕まったんだ? どんな悪事をしでかした?」
「……何もしてない」
「あん? なんだそりゃ」
「冤罪ってやつだ」
「ほ~冤罪ねえ」
「信じなくていいさ、別に」
「そう怒んなって……まあ、完全には信じられねえが、頭の片隅には置いといてやるよ」
「そうかい」
「ちなみに俺はな――」

 聞いてもないのに、自分の罪を自白!?
 こ、これが犯罪者の謎の犯罪自慢か! 自己顕示欲を満たそうと、他人にはドン引きされるだけなのに、人にはやれないことをやってやったぜ!的な精神から繰り出される愚かな行為。愚行!!

 まあ聞くけど。
 俺が生き残るのに、こいつ割と役に立ちそうな奴っぽいし。

「昔、捕まる前は地質学者をやっていてな。よく建築物を建てる前に、その土地が大丈夫か、どのくらいの深度に硬い土があるかを調べる仕事をしてた」

 それ建築業者の仕事じゃねえの!?
 地質学者って言ったら、その土地の性質を調べて過去の風景を再現なりして、当時ここはどんな場所だったかを調べるみたいな。
 俺の心知らず、じっと見つめる俺に気をよくしたか、ツルリは軽快に話を続ける。

「その日は、ある建築物が地盤沈下を起こしたから、その原因を調べてほしいって仕事が来た。お安い御用だと引き受けたのが俺の運の尽きさ」
「ある建築物?」
「そう! そこなんだよ、俺が捕まった原因は。その建築物ってのはな……?」
「ああ」
「なんと、女専用の大衆浴場だったんだよ!」
「……」
「あ! 今げんなりした顔しただろ。皆そうなんだ。俺のこのくだりを聞いた瞬間、揃いも揃ってアンタみたいな表情を浮かべやがる。だが、話はまだ終わっちゃいねえ。いいか?」

 いや、もういいわ。
 確実に下ネタぶっこんでくるのは目に見えてるし、俺そういうの得意じゃないんで。

 そう思ったが、話を止める労力より、聞き流す方が楽だと思い、ツルリの好きなようにさせる。

 ……にしてもツルリか。モジャモジャなのにツルリ。これ初対面で笑わない奴いないだろ。
 こいつはそれに気づいていないみたいだけど。

 俺がそんなことを考えている間にも、ツルリは話を続けている。

「つい、魔がさして風呂場を覗こうと考えたわけよ! そこの店主は商魂たくましいというか、あさましいというか、そんな状況でも営業を一時的にすら中止しなかったんだわ。それでな……」

 それにしても、こいつも囚人闘技者だろうに、よくこんな明るい表情してられんなあ。……っは! ツルリだけにピカッと明るいってか!? そうなのか?

「ふっ」
「お、話はまだこれからだぜ!? それでな――」

 漏れた笑いを自分の話で笑ったものだと勘違いしたツルリは気分よさそうに話し続けている。
 俺は今のしょうもない思い付きが、妙にツボに入って腹が痙攣けいれんを起こしかけている。

「――で、俺は屋根によじ登ったわけだ。で、屋根付近の窓に顔を近づけたところで……」
「くくっ」
「おっと、屋根から滑り落ちたわけじゃないぜ? 早とちりすんなよ? ……なんとそこで………………」

 カッと目を見開くツルリ。モジャモジャの髪がまぶたにかかっていて、不審者が驚いているようにしか見えない――。

「……っ」
「また地盤沈下が起きて屋根が落っこちやがったんだ! しかも運がいいというか悪いというか、俺が乗っている場所だけがな!! 地中を調べる地質学者が、空中から降ってきたってわけだ! とんでもねえ皮肉だと思わねえか!?」

 ニカッと口を大きく開きながらツルリは言い放った。

 ツルリ……、明るい性格だけに。でも毛はモジャモジャ。顔は興奮してしわがクシャクシャ――。

「ぷははっ」
「ははっ、間抜けな奴だと笑っただろ!? だが、俺はそれだけじゃ終わらねえ。言ったよな、屋根からすっぽ抜けて落ちたって。つまり落ちた場所は……?」
「くっくっく」
「?」



 笑いどころでないところで笑い続ける俺に、ツルリは疑問の顔を浮かべたが、それでも続ける。

「そう、女風呂のど真ん中って寸法よ! 運のいいことにそこはちょうど湯が張られた場所。そして俺はただでは起き上がらねえ。捕まる代わりに、その場に居合わせた女どもの裸を目に焼き付くほど凝視してやったんだ! どうだ、羨ましいだろ!! しかも無傷だぜ!?」

 水に塗れてビチャビチャ……毛はモジャモジャのヌチョヌチョ――っ。

「ぶふうっ!」
「え? いや、そこは笑うところじゃなくて、羨ましがるところなんだけどな……ってオイ、何だよ……おいそんなに面白いか。そんなに笑うとくくっ、つられちまうだろうがワハハ」
「ハハハハハハッ!」
「ワハハハハハッ!」

 一頻ひとしきり笑い、ツルリは手を伸ばして握手を求めてきた。

「気に入ったぜ。タダじゃないが、何か頼みたいことがあれば安くしといてやるよ。いつまでの付き合いになるかはわからんがな」
「……サンキュ」

 俺はツルリの手を握り返しながら、がっしりと握手を交わした。
 俺たちは意気投合した。
 カオス。

「初回サービスだ。何か聞きたいことはあるか? 答えられるなら、できる範囲で答えてやるよ」
「……」

 刑期の話は聞いても、分からないだろう。なら……、

「俺の明日の対戦相手が誰かわかるか?」
「あ~、悪い、そういう情報も商品として取り扱ってるんだが、なんせお前は新入りだ。情報が全く入ってきてねえ」
「そうか。……なら」
「おう」
「ここで生き残る秘訣は?」

 虚を突かれた表情をツルリは浮かべ、すぐにそれは苦笑に変わった。諦めの入ったその表情は、見ているだけで気が滅入りそうになった。

「それが分かれば苦労しねえさ」
「……だよな」

 俺は自嘲気味の笑みを浮かべた。
 ツルリはそんな俺を見て、何とも言えない複雑な表情をした。
 恐らく……いや、間違いなく察したのだろう。

 俺が明日の試合に怯えていることに。

 ツルリは視線を合わせるように俺を見上げ、俺の肩を軽く叩いた。

「生き残れよ、兄弟」

 ツルリと初邂逅から数十分……俺は親友マブダチどころか、こいつの義兄弟になった。
 俺はツルリの気遣いに思わず笑みを漏らした。

「ははっ、ありがとよ。性欲の成れの果て」
「いいってことy……って、はあ!? いや、俺励ましてんだけど!? 激励してんだけど!? 」
「はははっ」
「ったく、そもそもお前はさっき会った時から――」

 ツルリは激オコして、俺にやれ「ふざけた奴」だの「こっちの気も知らねーで」だの、ぶつぶつと俺への不満を述べ始めた。
 俺はそれをじっと見つめた。

「な、なんだよ!?」

 俺はさらにじっと見つめた。
 するとツルリは少しシュンとなった。

「た、確かに犯罪の類は性犯罪だけどよ。でも覗きだぜ……そ、そこまで言わなくても」

 俺はツルリのチョロさを再確認してキュンとした。
 が、ツルリがひげモジャの男だと思い出して、すぐにイラッとしなおした。

 さらにさらにじっと見続ける俺に、ツルリは「ううっ」とうめいた。

「その……の、覗いたのは悪かったと思ってるよ」

 俺はツルリの殊勝な態度に、心が寛大になるのを感じた。
 す――、と人差し指をツルリの額へかざす。

「許そう」
「……へへ」
「やっぱ許さん」
「なぜに!?」

 ツルリの弄られキャラっぷりと、謎のヒロイン属性に密かに戦慄しながら、俺はその場を後にする。
 ツルリは俺とのやり取りで精神を摩耗したのか、「う~んう~ん」と唸っている。
 去り際に、俺はツルリへ、本当に小さな声で呟いた。

「ありがとよ」
「う~んう~……えっ?」

 ツルリが振り向く気配がした。俺は振り向かなかった。
 死を決意した顔を……そんな悲壮な表情を、義兄弟には見せたくないから。悲しませたくないし、心配もさせたくないから。

 明日……か。

 俺はこぶしをきつく握り締めた。

「生き残る……俺は、勝って生き残る」







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